アクセス・オーストラリア珍渡航記

 

 

    アクセスディンギー全豪選手権 無線航海日誌 

                  岡 道信

photo by yagi

 こんなお題で、お叱りをうけるかもしれませんが、私にとってたいへん印象的で、

大切な旅行なのであえてこの題で書かせていただきます。

2月21日午後6時、両手に持ちきれないほどの夢を持ってみんなが、関空に集合した。

税関を通過したところでもう緊張がとれたのか藤本さんが北港方式で、まずビールを

右手でもち いかにも似つかわしい。私は、いつからハイエナになったのか、

そのうわまえをはねる。20年ぶり、今回が、初めての海外旅行の方など

いろいろな人を、乗せて飛行機が飛び立った。 

昨年は、私の席の隣に座られたのは、父とその息子さんで、

幸運にも旅行がくじであたった方たちだった。

私は、お父さんが、とてもうれしそうに、そのことを話してくださったのを、

昨日のことのように思い出す。今年は、私の、パートナーで中田さんだ。

エー?、みちゃんのパートナーだって?そうなんです。

私は、結婚したのです。去年11月に藤本さん仲人で急に決まったのです。

私は、中田さんの誘導で無線でアクセスを操縦することに決まったのです。

ハ、ハ、ハ、前会長の秋津さんがプレゼントしてくださった無線を命綱に、

杉山さんが寄付してくだっさったライフジャケットを身につけて

中田さんを白杖(盲人用)にして、私の夢が始まった。

機内で、夕食を取ったあと少しワインと酒のあてを食べたあといがいとはやく眠りにつく。

1時間ほどたったところで、みちゃんと、小声で誰かが、私を呼ぶ。酒のあてくれる? 

渡辺さんが、声をかけてきた。私が、酒のあてを日本から持ってきているのを、

知っているのだ。あてをわたしてまたすぐ眠りにつく。

日本時間午前3時に朝食を食べる。その後、ブリスベンで飛行機が、着陸。

1時間程度休憩。その短い休憩の間に、またビール。このひと時が、私の幸せなのだ。

現地時間9時ごろにシドニーに到着。その後みんなに連絡事項を伝え、

自己紹介をした後、一時解散。食事をしに、空港内のファーストフードへ入る。

そこでサンドイッチとコーラを飲む。そこへ、野上さんのお母さんが、

柿の葉すしを、一切れくださった。なんとなく懐かしい味がする。

昼過ぎ集合。目的地のキャンベラへ国内線に乗り換える。

28人乗りの小さな飛行機に乗りキャンベラへ午後3時ごろ到着。

空港のロビーに出たところで、岡さんと誰かが呼ぶ。

私には、姓が、なく日本では、みちゃん、外国では、マイケルとしか呼ばれたことがない。

久しぶりに呼ばれた岡さんという名前が懐かしい。

キャンベラ在住の高田さん夫妻が迎えにきてくださったのだ。とてもうれしい。

マイケルと、いう声がする。この声は、よく聞く声だ。そう、グラハムだ。

不思議なことに、合うのは、久しぶりに合うのにいつも会っているみたいで、

久しぶりという気がしない。空港の駐車場へ移動してグラハムが用意してくれた

バスに乗りこむ。みためは、(決して見えていない)先ほど乗った飛行機と同じで

ボロボロ、ところが中へ入ってびっくり。テーブル、ベット、キッチン、トイレと、

至れりつくせりだ。3日ほど前に150万円で買ったというのである。

やることがダイナミック。十分30人は乗れる。このバスを、片足のない

グラハムが運転するというのだ。これは、アクセスより難しいのではないのかと、思う。

30分ほどバスに揺られたあと、ホテルに到着。

部屋割りをした後ホテルでガーデンパーティー。このパーティーには、シンガポールから

こられた方も参加されていた。パーテイーのあと隣のスポーツセンターのパブで

少しお酒をのむ。ああしあわせ。

翌日、朝食を食べに藤本さんの部屋にいく。部屋へ行くと、藤本さんが、

鰻丼だという。食べてみると魚ではあるが、鰻ではない。白天である。

目が不自由であるというのは、こんなとき不便である。どんなときでもまずは、

言葉を額面どうりとって ものを想像する。よく母ともめるのであるが、

この食べ物なにと、聞くと、食べたらわかるというのである。ところが、

たとえば、鳥と、豚の肉が、区別がつかないときがある。と言うのも

飼料が同じだからである。ともかく白天どんぶりをいただいて性懲りもなく

ビールでうがいをした。朝食後、近くのスーパーへ中田さんと買い物に出かける。

途中スーパーのカートが道端に放置されていたのでそれを押してスーパーに

買い物。そこで、ビーチサンダル、日焼け止め、短パン、ティーシャツ、

ビール、あてを買う。昼ご飯を食べた後、カートを押してホテルに帰る。

ホテルに帰ったあと、中田さんと顔を見合わせ馬鹿笑い。カートを

スーパーへ返すつもりが、荷物を、いっぱいにして持って帰ってきてし

まったのだ。午後レース会場の湖に行く。バスから降りてバスの前で、

しょうちゃんから寄付していただいた横断幕をひろげ、笑顔いっぱいの記念撮影。

そこで、翌日からのレースに備え施設の準備と練習。

練習準備をまってるい間かなり時間が、あったので芝生の上でうとうと、

あー幸せ。そこへ、まこと君が、みちゃんと呼ぶ。あれ?昨日、関空で、

私たちを、見送ってくれたはずなのに、どーしてここにいるの?

みんなが楽しそうだったので、見送ったあとすぐくることを、

決めたのだという。額面どうりとっていいものか?少し、おっさんの

いやらしい感情が頭をよぎる。あーいやだ。そうこうしている間に、

今度は、西岡さんが、血相かえてやってきた。

まこと君と一緒の飛行機だったのだが、ホテルから湖までの道を

まこと君とは、違い、湖を一周してきたみたいだ。おかげで、

足の豆かつぶれて、くるなり、挨拶もそこそこに、誰かバンドエイドを

もっていませんか?と、たずねる。野上さんのお母さんが、

持っていたみたいでそれをわたす。

治療がすんで、気がおさまったのか西岡さんが、湖の周辺を探索しようと、

誘ってくれた。さすがに、西岡さんだ。野上さんと、私に、懇切丁寧に

生息している植物や周りの環境、風の方向など教えてくださった。

そうこうしていると、練習するよと、いう声がする。いよいよ、練習だ。

中田さんの声が、無線をとうして聞こえてくる。エッチのみちゃん、

エッチのみちゃん聞こえますか?なにの交信をしているのだ?

最初の呼びかける声が、途切れるので、エッチのみちゃんと言う声が、

私には、みちゃんとしか聞こえないのだ。オーストラリアだから、

まあいいか。夕方、湖のはまべで、バーベキューパーティー。

セーラビリティーの主催なので、ビールは、ない。ああさびしい。

ホテルへかえってシャワーをした後、また、パブで少しビールを、飲む。

ああ、幸せ。明日は、いよいよレースだ。

2月24日午前7時 藤本さんの部屋で、おにぎりと、味噌汁を、食べる。

その後、レース会場へ移動。昨日とうってかわって、会場は、

すごくにぎやかだ。少し落ち着いたころにバーバラさんと1年ぶりに再会。

あとで述べることになるが、彼女は、昨年キャンベラ空港から、

私たちをホテルまで送ってくださり、大使館でのでの歓迎パーティーも

一緒だったグラハムの友達だ。グラハムは、彼女を私に紹介するときに、

彼女は、すごくグラマーなんだ。マイケル、君は、見えないんだから、

触らせてもらったら?と、冗談を、言われた。これが、運のつきで、

グラハムは、女性を私に紹介するたびに、マイケルは、

インターナショナルバストテスターと紹介した。もちろん、

今晩のパーティーでもインターナショナルバストテスターと

紹介されるだろう。

午前9時20分、みんなが、騒ぎだす。私の乗る船が、いくらさがしても

見つからないと、いうのだ。午前10時に私の出場するレースが、

スタートするのだ。みんな少しあせり気味だ。私の顔も少し曇る。

午前9時30分、出場選手が、本部テントに集合。そこでレースの注意事項を、

聞く。そのレースの注意事項の中で私の船のことが述べられた。

私の乗る017のセールの船を見たら、ブラインドが無線で参加している。

そのセールは、茶色のマークをしてあるのでよけてくださいという

ものであった。私のために新セールをわざわざ作ってくださったのだ。

ありがたい。だれがさがしてもセールは、ないはずだ。セールは、

本部テントに、説明のために飾られてあるのだ。ミーティングが、

終わっていよいよレース。しかし、私の、セールは、あったが、まだ船が、

ない。みんな少し慌て気味。もう一人ブラインドが出場しているので

その方とダブルブッキングしたのだろうか?そうでは、なかった。

まだ船がついていなかった。セールをあげて、船にゼッケンを

つけたときには、レースは、スタートしてから5分以上過ぎていた。

さすが、オーストラリアだ。おおらかな国だ。私も、なんとか、

スタートを、切った。ぽころが、またハプニング。風が、まったくない。

目が見えないのに、風がわからないとは、困ったものだ。おまけに

中田さんの誘導が、水上からではなく、陸上からなのである。

お互い勝手が違う。気持ちは、あせる.送迎会で、みんなの前で、

寺尾会長に、がんばってきます、1着になってきますと、行った

手前カッコウ悪い。しかしそんなことは、頭を、少しよぎっただけで、

レースに夢中になってわれを、忘れてしまう。20分ほどたったところで

レスキュー船が私の船を引っぱりにきた。タイムオーバー。

ああ、残酷。しかし、このレースは、風がなかったため、ノーレース。

一息つく。つぎのレース15分前、もう、陸に、戻っている間は、ない。

ところが、また、ハプニング。無線が聞こえない。桟橋に、もどる。

ボリュウムが、小さかったのだ。ああ、情けない。

このレースも5分以上遅れる。またレスキュー船に引っぱられる。

タイムオーバー。くそー。

3レース目。今度は、少しスタートは遅れたものの、なんとか完走。

うしろに、4、5隻あったみたいだ。このレースもナカダさんの誘導は、

陸からだった。風、船の位置関係が、わからないみたいだ。しかし、

完走できたのだ。ほっとした。陸へ、あがると笑顔で、中田さんが、

完走おめでとうと、握手してくださった。私の顔も、ほころんだ。

なにせ日本での練習でまともに走れたことが、なかったのでどうなるのか、

本当のところ心配だった。みんなのいるテントへ、もどってまた拍手をもらった。

何か気恥ずかしかった。そこへ、おだっちが、もどってきた。

がっかりしていた。レースを間違えたらし。あやちゃんと、まこと君が、

おだっちにスタートの説明を一生懸命おしえて、明日のレースに備えていた。

ともかく、中田さんの誘導ではあるが、1人で、レースに出場できたことは、

私にとって大きな自身になった。午後からは、みんなのレースを観戦した。

明日のレースが、はやくもまちどうしい。子供みたいだ。夜、パーティー、

今年は、誰がヒーローだ?昨年はおだっちが、電動車椅子で踊った。

みんなが感動した。おだっちは、それで賞を、いただいた。今年は、

Ameと渡辺さんが、やってくれた。

Ameは、両手がなく、足も片しでおまけに足の指が3本しかない。

その彼女が、彼女のお父さんのピアノの伴奏でセイリングを

トランペットで演奏したのだ。演奏している間、会場は、静まりかえった。

演奏が終わったあと、会場は、拍手のうずだった。私の目から知らない間に

涙があふれていた。渡辺さんは、ディスコタイムになってがぜん張り切り出した。

いつのまにか、まつばずえを、上にかざしフラミンゴみたいに、

片足で踊っていた。おまけに、英語は、しゃべれないと言っていたのに、

ローハイドを、歌っていた。感動いっぱいの、楽しい夜だった。

2月25日午後1時、私の船の調整をおこなう。

昨日、ティラーが、硬かったので直してもらった。4レース目も完走できた。

5レース目。少しスタートは、遅れたが、風をつかんだ。上マークまで

スピードが上がる。中田さんの声が無線からきこえてくる。ミッチャン、

1番や。ガンバレ。4レース目から、レスキュー船に乗ってちょっとでも

私を近くから誘導する。タック。その瞬間から無線の交信が途絶える。

私は、あせる。それから船は、暴走。あちこちの船にぶつかり、

迷惑をかける。スターボーと、大きな声。みんな、暴走していたので

怖かったのだろう。5分ぐらいたったところでレスキュー船から肉声。

中田さんだ。助かった。気をとり直して、ガンバル。無線もどうしたことか直る。

なんとか完走。ああ、よかった。このレースで、ほかにもたくさんの船が、

出場していることが、わかった。陸へ、あがってテントへ、もどる。

西井さんが、芝生に座るやいなや、血相を変えてやってきた。どうやら、

抗議を受けたみたいだ。しかたがない。本部テントに行く。誤る。

もどっておにぎりを、いただく。おいしかった。その後、

抗議をうけた方や、抗議をうけていない方でもぶつかった方とお会いして

仲よくなった.表彰式。みんな晴れ晴れした顔で望む。日本では、

おだっちと岡山の斉藤さん親子がクラス3位入賞した。喜ばしい。

海外から参加の皆さんに配慮して遠路しょうがわたされた。

メダルをいただいてオーストリア総督閣下ウィリアムディーン氏と

記念撮影した。うれしかった。。しかし、

遠来賞を本当にわたさなければならないのは、

ボランティアの方たちにでは、ないのか?と、思った。とにかく

無事レースは、終わった。子供になってレースを、楽しんだ。

終わったばかりなのに、もう、来年のことが頭を、よぎる。ああ、気がはやい。

夜、オーすトラリア最後の夜。ホテルのとなりのレストランで食事。

合田さんの司会、挨拶で食事が、始まる。ゴーちゃん、本当にご苦労さん。

みなそれぞれに、一言ずつ、感想を述べる。みなそれぞれの思いを胸に、

翌早朝、キャンベラを後にする私は、この旅をとうして障害をもって

おられる方達の潜在能力、人間の知恵、人の幸福のあり方、

などいろいろ考えさせられました。この旅は、一言で言えば、

皆様の善意だと思いました。皆様本当に、ありがとうございました。

追伸

つたない文章の中で目が見えているような表現をしてすみません。

また、エッチのみっちゃんでは、ありません。

インターナショナルバストテスターでもありません。

目は、不自由ですが、人格は、普通です。

航海日誌を、読んでいただいて、ありがとうございます。